余剰で商売をすることが起業の基本:追補資料9

はじめに

商売とは「人が求めているものを自分なりのやり方(専門性や才能、持っているもの)で提供すること」です。それでは、専門性や才能、持っているもの(以降、資本と呼びます)を持っていない人はどうしたら良いのでしょうか。

起業する人には是非心に留めておいて欲しいことは、

「ないものは作る」気持ちです。

今の時代は、生活に必要な物はお店に行けば全て揃っています。私たちがすることは、探すこと、選ぶことです。しかし、面倒くさいと思いますが、一度は「今ある物で作れないか」検討してみてください。もしくは、「素材は買ってくるとしても自分で組み立てる」ことを考えてみてください。

多くの場合は、買ってきた方が安いし、うまくできるでしょう。でも、一度は作ってみてください。

商売は、二つの人で成り立っています。

1人は作る人、もう1人は買う人です。起業は、買う人から作る人になることです。どんなに不格好でも、幼稚でも構いません。まずはやってみましょう。

その上で、この追補資料では、

・作ることで生まれる余剰

・なぜ余剰を商品とするのか

の二点について解説していきたいと思います。

この資料を読み終わった時には、余剰を使って、自然の流れに沿った商品ができるようになっているでしょう。

余剰で商売をするとは

余剰とは

余剰とは読んで字のごとく余る物です。

分かりやすい例を上げれば、夏のトマトや胡瓜(きゅうり)です。私が住んでいる長野県では、多くの家でちょっとした家庭菜園をしています。夏野菜として育てやすいトマトや胡瓜、ピーマン、茄子、この辺りをよく栽培しています。そして、時期には毎日食べても食べても食べられないぐらい採れます。そうすると、隣近所へお裾分けします。贈与の気持ちというよりは、採れすぎて困るからもらって欲しい、という気持ちです。もらってくれると有り難い。

これが余剰です。

「こうした余剰を商品として売りましょう。」

というのが、今回お伝えしたい内容です。

余剰で商売をする意味

お金の奴隷にならない

こうした話があります。

自由時間に、幼稚園でA君という子供が絵を描いていました。その子は絵を描くのが好きで、自由時間になるといつも絵を描いていました。

ある時、保育士が絵の授業の時間に「1枚絵を描いたらお菓子を一つあげるね。」と言って、A君のやる気を更に上げようと思いました。しかし、その後A君は自由時間に絵を描かなくなりました。保育士が理由を聞いてみると「だって、絵を描いてもお菓子がもらえないもん。」

他には、サッカーを遊びでやっていた時は楽しくて、時間を忘れてやっていたのに、部活で強制的にやらされるようになるとやる気がなくなってしまった、とか。

こうした例は幾つもあると思います。

これは外部報酬(外的動機)と内部報酬(内的動機)という考え方でよく説明されます。

自由時間に絵を描いていた時は、A君は自分の中に湧き上がる楽しさを動機(報酬)に描いていました。しかし、お菓子がもらえるという報酬が出てきたことによって、A君の絵を描く動機が外部、今回の場合は保育士に乗っ取られてしまいました。こうなると、A君の行動は保育士に左右されてしまうようになります。

もちろん、必ずそうなるわけではないですが、報酬によって人の行動を促進しようとする場合には、こういう危険性もあることは頭に留めておくと良いと思います。

宗主国と植民地、先進国と発展途上国との関係も似たものがあります。

植民地で生産される物は自分達の為の物ではなく、宗主国が必要とする物を作らされます。

植民地では元々生活に必要な物を全て作っていました。しかし、植民地化されることで、宗主国から命令されて単一の物しか作ることができなくなりました。

イギリスの植民地だったインドでは、綿花、紅茶のみを生産するようになりました。当然ですが、イギリスが来る前は、インド国内でも綿花を材料に、布を織る産業のあったはずです。しかし、それは破壊され、インド国内の産業のみだけでは生活が成り立たなくなってしまいました。こうしてインドはイギリスに頼るしかなくなって、しかも値段や生産量はイギリスの意向に左右され、搾取される構造が出来上がってしまいました。

こうしたことを考えると、お金の為に相手が望むものを提供する、と言った考えを元にすることは少々危険な気がします。

(うまく伝えるのが難しいですが、相手が望むものを提供すること自体は商売において基本となることです。それを否定しているのではなく、”自分なりの方法” 資本を作る段階の話をしています。)

暮らしとの整合性

起業とは、ある意味、自分なりの暮らし方を自分で作っていくことです。一日の内、何時間働くのか、それで幾ら稼ぐのか、何をするのか、遊びの時間、趣味の時間、家族との時間、公共的な時間など、そういったものを自分の価値観や環境、状況に合わせて組み立てていく作業です。

大きく分けると、生きていく為に必要な仕事としては、食べ物を栽培する、採ってくる、作るなど ”自給的な仕事” と、人と物や労力を交換する仕事に分かれます。

自給的な仕事によって生まれた余剰を人と交換するようにすると、自給的な仕事と人と交換する仕事が別々のものではなく、相互に影響を与え合う循環的な状態になります。

先程のトマトの例で言うと、家庭菜園のトマトは自分達が食べるために育てています=自給的な仕事

食べきれない程トマトができると、余ったトマトは人に与えます=人と交換する仕事

美味しいトマトを作る為に工夫したり調べたり、楽に栽培ができるように設備を整えたりすると、もっと沢山トマトが余ったり、もっと美味しいトマトができるようになるので、人にあげるトマトの生産性が上がります。

また、逆に(余ったトマトをあげるだけじゃなくて、販売もしたとすれば)お客さんからの評判を聞いて、栽培の工夫をすれば、自分で食べるトマトも、そのおこぼれを頂戴できます。

自分が欲しい物を余るまで作って、それを売るようにすると、暮らしと商売の組合せをし易くなります。

日々の活動が簡潔になる

先にも書いたとおり、自給仕事を基本として、その余剰を人に渡すようにすると日々の活動が簡潔になります。

自給の為の仕事(趣味や家族の時間、個人的な時間も含む)を商売が別の場合、この二つを最適な比率で調整することが大切になりますが(ワークライフバランス)、余剰で商売をした場合、どちらも同じ活動になるので、バランスを取る必要がありません。

自然の摂理

私が余剰で商売をすることの意味に気付いたきっかけになるのですが、自然界では余剰(またはゴミ)を他者が利用することで物質は循環し、新しい物質や生命が作られ豊かになっています。

例えば、ミツバチは自分達が食べるために花の蜜を集めます。ミツバチ達は意識していないでしょうが、それが同時に花の受粉を手助けすることになっています。

また、動物は住処の外に出て食べ物を食べて来ます。そして、住処の近くでウンチをします。このウンチは、微生物のご飯となり分解され、植物の栄養源となります。植物は光合成によって物質を作りだし、生長します。植物もやがて枯れて、微生物に分解されて土となり、次の生命の源となります。

この過程で、物質は集まり、新しい物質や生命が作られていきます。面白いのは、この過程の中では誰も人の為に動いている者はいないことです。みんな利己的に動いているのに、排泄物(=余剰)を人に渡すことで(それを求めてやってくるとも言える)、全体としては利他的に豊かになるように作用しています。

ちなみに、人も動物なので生きているだけで外から資源を集めてきて、地元を豊かにしています。但し、今はせっかく集めてきた物質を下水として海に流してしまったり、活用しない社会の仕組みを作ってしまっています。この視点で見ると、輸入は外国から資源を集めてきて日本を豊かにしていると言えます。

余剰で商売をするやり方

追補資料③のワークシート「図解起業の教科書」を見ながら読むと分かりやすいと思います。

追補資料③のワークシート「図解起業の教科書」

仕事を分解してみる

仕事を大雑把に分けると、

・自給仕事:自分の為にすること

・人の為にする仕事

に分けられます。

さらに自給仕事は、

・自給自足の仕事

・隣人と協力して行う共同仕事

に分けられます。

共同仕事は、1人ではできない水路の整備や道路の整備などになります。田舎の方では町普請と言ったり、結いと言ったりして、残っている地域もありますね。

人の為にする仕事も、

・贈与の取引

・商売、お金を介した取引

に分けられます。ここでは、人に何かを渡す行為を取引と呼んでいます。

贈与の取引は、物や労力を渡した代わりにお金をもらわず、信用という目に見えない形でもらいます(詳しくは起業の教科書を参照)。

商売は、お金をもらいます。

改めてまとめると、仕事はこの4つに分かれます。

・自給自足の仕事

・共同仕事

・贈与の取引

・商売

余剰で商売をする手順

1.自給自足の仕事、または共同の仕事を、余剰が生まれるまで行う。

2.生まれた余剰を、欲しいという人にあげる。

3.余剰を贈与としてあげるか、お金をもらって商売として渡す。

余剰の種類

まずは、余剰も色々な種類があるのでそれを提示してみましょう。

1.生産物の余剰

余剰と言えば、これを思い浮かべる方が多いでしょう。農作物でも、工業製品でも、何か物を余分に作った物ですね。

2.ついで

例えば、自分自身の買い物の為にスーパーへ行くとしましょう。この時に、どうせ行くなら隣のお婆ちゃんが欲しい物を一緒に買ってきてあげます。

こうした何かをする時についでにできること。これも余剰です。

3.知識、情報、ノウハウ

何かを調べたり、勉強したり、やってみた結果手に入れたノウハウ。こういう情報系のものは、人に教えたからといって減るわけではありません。インターネットやIT系の事業が利益率が高いのはこの為です。一度作ってしまえば、複製して販売するのにほとんど手間も費用も掛かりません。複製したからといって減りも劣化もしません。

こうした減らないものも余剰です。

4.仕方なくやるしかなかったこと、対応しなければいけなかったこと

起業でやることは、どちらかと言ったら、やりたいことだとか、前向きな物事で考えがちですが、嫌々だとしてもやらざるを得ない状況でやることで身に付けたことも余剰になります。

5.持たざるを得なかった物

先のものは技術とか目に見えない余剰でしたが、受け継いだ山、家、道具、物など、そういった物も余剰と考えます。

大体、この5個で書き出してみると、今ある意外な余剰が見付かるかも知れません。

(ワーク)今ある余剰探し

質問1:5つの視点で余剰を書き出してみましょう。

・自分で余るほど作ってしまう物はありますか。

・普段、どんな行動をして一日を過ごしていますか。

・今までに手に入れた知識、技術、情報、ノウハウはありますか。前向きなものだけではなく、やらざるを得なかったことも書き出してみましょう。

・受け継いだ物や持たざるを得なかった物を書き出してみましょう。

(時間10分)

まとめ

余剰を作るにあたって大事なことは、自分が欲しい物を買うのではなく、一度は自分で作ってみることでした。自給的な仕事をを増やしていくことを私はオススメしていますが、完全自給自足をしなければいけない、とは思いません。

大切なのは、選べる状態にいることです。

自給しても良いし、買っても良い。普段の生活ではお店で買うけど、いざとなれば自分で作ることもできる状態にいること。こうすることで、外部に依存せずに主体的な生き方を維持できます。

やってみたい商売があるのなら、余剰が生まれるまで自給的な仕事として逆にやってみることも良いと思います。

ぜひ、余剰を売るという感覚で事業を作っていってみてください。

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