モノづくりをしていると、どうしても避けられないのが「ロス」の問題です。
季節の果物で無添加ジャムと焼き菓子を作る結衣(ゆい)の工房でも、それは同じでした。 果物の出来が良くて予定よりたくさんジャムができちゃった時。焼き菓子の端っこが少しだけ欠けてしまった時。
品質や味には全く問題がないのに、メインの「季節のお任せ定期便」には入れられない。 手塩にかけて作った我が子のような商品を捨てるなんて、到底できない。
「もったいないし、少しでも売上になれば……」
そう考えた結衣は、近所にある大型スーパーの「地元生産者コーナー」に、余剰分のジャムや焼き菓子を少しだけ安くして置かせてもらうことにしました。
「売れる。でも、なんだかモヤモヤする」
スーパーへの出品は、思いのほか好調でした。 毎日何千人もの人が訪れる場所です。バーコードシールを貼って棚に並べておけば、手軽に手に取ってもらえます。直接のお客様と連絡を取り合うような手間もなく、毎月まとまった額の売上が口座に振り込まれました。
「ロスも減るし、小銭も稼げる。これで良かったんだ」
頭ではそう理解しようとしていました。 しかし、スーパーへ納品に行くたびに、結衣の胸の中には言葉にできない「モヤモヤ」が黒い雲のように広がっていくのです。
ある日、納品に行くと、結衣がひとつひとつ丁寧に瓶詰めしたジャムの上に、別の重い商品が無造作にドンッと置かれていました。スーパーの担当者にとって、それは結衣の想いが詰まった作品ではなく、単なる「商品コード〇〇番」の在庫でしかなかったのです。
さらに、結衣のジャムのすぐ隣には、工場で大量生産された数百円の安いジャムが並んでいます。
「私が本当に届けたかったのは、こういう形だったっけ……?」
アパレル業界の「アウトレット」の罠
このモヤモヤの正体を探る上で、あるアパレルブランドの仕組みがとても参考になります。
アパレル業界では、流行を予測して服を大量に作ります。そして、シーズンが終わって売れ残った服を「アウトレット」で安く販売してロスを減らします。 最初は「在庫がお金に換わって良かった」と思うかもしれません。
しかし、それが続くとどうなるでしょうか? お客様は「どうせ数ヶ月待てばアウトレットで安く買えるから、今は定価で買うのをやめよう」と学習してしまいます。結果として、本当に売りたかった「定価のブランド服」が売れなくなり、ブランド全体の価値が下がってしまうという悪循環に陥るのです。
結衣のスーパーへの出品も、これと似た危険性をはらんでいました。
「いつでもスーパーで手軽に買える」状態を作ってしまうことは、結衣のメイン商品である「季節のお任せ定期便」の価値を薄めてしまうことになりかねません。スーパーのついで買いで手に入れるジャムと、毎月ワクワクしながら箱を開ける定期便のジャム。
同じジャムという「モノ」であっても、「どこで、どう買うか(入手方法)」が違うだけで、お客様が受け取る価値は全く別物になってしまうのです。
「買い方」も、ブランドという商品の一部
スモールビジネスにおいて、商品は「モノ」だけではありません。
・どんな想いで作られているかを知ること ・作り手から直接手渡される(送られてくる)温もり ・それを買うために、少しだけ手間や時間をかけること
こうした「買い方の体験」そのものが、かけがえのない商品価値の一部なのです。
もちろん、スーパーに卸すこと自体が悪いわけではありません。「地元の人に手軽に知ってもらうための入り口」として割り切って戦略的に使うなら、それは立派な手段です。
問題なのは、「もったいないから」「楽に小銭が稼げるから」という理由だけで、自分のブランドの価値観と合わない場所に商品を流してしまうこと。それは、自分で自分のブランドの首を絞めることになりかねません。
結衣は、スーパーの棚に並んだ自分のジャムを見つめながら、決意しました。 「ただ売れればいいわけじゃない。私のジャムを、私らしい『買い方』で楽しんでくれる人に、ちゃんと届けよう」
手軽さや効率を優先するあまり、あなたの商品の「本当の価値」を薄めてしまっていませんか? 時には「売らない場所を決める」ことも、大切なブランド戦略なのです。
【おわりに】
効率やスピードばかりが求められる現代。 「もっと売上を上げなきゃ」「もっと効率よくやらなきゃ」と、どこか急き立てられるような焦りを感じていませんか?
でも、立ち止まってモヤモヤと悩む時間や、あえて手間暇をかける不自由さの中にこそ、あなたらしい「商い」と「暮らし」のヒントが隠されているのかもしれません。
誰かの正解を生きるのではなく、自分の違和感を大切にしながら、自分サイズの暮らしと仕事をデザインしていく。 もし、そんな生き方に少しでも共感していただけたら、ぜひ私のプロフィールページを覗いてみてください。
きっと、あなたのモヤモヤを晴らす、新しい視点が見つかるはずです。
▼ 自分の暮らしを、自分でデザインする。
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