毎月の帳簿をつける時間。スモールビジネスを営む私たちにとって、それは通信簿を渡されるような、少し胃が痛くなる時間ではないでしょうか。
地元の季節の果物を使った「無添加ジャムと焼き菓子の小さな工房」を営む結衣(ゆい)も、月末の帳簿を前に深くため息をついていました。
「……先月より、出荷数が減っている」
結衣のメイン商品は、その月に一番美味しいジャムや焼き菓子を見繕って届ける「季節のお任せ定期便」。お客様との直接のやり取りを何より大切にしてきました。しかし、ここ最近、定期便をお休みする方や、付き合いのあったカフェからの注文量が少しずつ減っていたのです。
「私のジャム、飽きられちゃったのかな」 「もっとSNSで新規のお客さんを集めなきゃダメかな……」
減っていく「数字」を見ると、まるで自分自身の価値まで下がってしまったように感じて、言いようのない焦りと不安が押し寄せてきます。個人で商いをしている方なら、きっと一度はこのヒヤッとする感覚を味わったことがあるはずです。
焦りの中で見落としていた「もう一つの数字」
「とにかく、もっと配達先を増やさなきゃ!」 そう焦っていた結衣ですが、ある日、帳簿の数字だけでなく「自分自身の働き方」を振り返ってみて、ハッとしました。
たしかに、ジャムの出荷瓶数は減りました。 でも、手元に残っている「利益」はどうでしょうか? 実のところ、利益自体はそこまで大きく落ち込んでいなかったのです。
以前は、少しでも売上を立てようと、薄利でも大口の注文を受けたり、遠方まで無理して配達に行ったりしていました。その結果、作る時間よりも配達や梱包に追われ、夜遅くまでクタクタになって働く日々。
しかし最近、素材の高騰に合わせて少しだけ価格を見直したことで、「安いから」という理由で買っていた人は離れてしまいましたが、「結衣さんの作る季節のジャムが本当に好きだから」と言ってくれるお客様が残ってくれていました。
出荷量が減った分、梱包や配達にかかる「手間と時間」は劇的に減っていたのです。 つまり、「1,000円の利益を生み出すためにかけていた時間と労力」が減り、効率が良くなっていたということ。
それは「衰退」ではなく「体質改善」
この現象は、ダイエットにとてもよく似ています。
体重計に乗って「体重(全体の売上・出荷数)」が落ちていると、一見すると元気がなくなってしまったように見えます。しかし、中身をよく測ってみると、実は「無駄な脂肪(無理な労働や低い利益率)」が落ちて、「筋肉(本当に価値を感じてくれるお客様との繋がりや、適正な利益)」の割合が増えている状態だったのです。
数字だけを見ると「衰退」に見えるかもしれません。 しかし、スモールビジネスの視点で見れば、これは間違いなく「質の向上」であり「本当の成長」です。
売上を上げるためだけに、身を削って安い単価で労働時間を増やすのは、いつか必ず限界が来ます。 結衣が今迎えているのは、その限界の手前で「利益率が高く、心身ともに持続可能なビジネス」へと脱皮するための、重要な転換点だったのです。
数字の裏にある「本当の成長」を信じる
もし今、あなたが「売上が減った」「お客さんが減った」と落ち込んでいるのなら、少しだけ立ち止まって、数字の裏側を見てみてください。
以前より、お客様一人ひとりと丁寧に向き合えるようになっていませんか? 以前より、少しでも自分の心と体に余白が生まれていませんか? あなたの提供する価値を、本当に理解してくれる人が残っていませんか?
規模を追うことだけが、商いの正解ではありません。 手元に残ったその「良質な筋肉」を信じることが、長く愛される小さなお店を作っていくための第一歩なのだと、結衣は少しだけ晴れやかな気持ちで帳簿を閉じたのでした。
【おわりに】
効率やスピードばかりが求められる現代。 「もっと売上を上げなきゃ」「もっと効率よくやらなきゃ」と、どこか急き立てられるような焦りを感じていませんか?
でも、立ち止まってモヤモヤと悩む時間や、あえて手間暇をかける不自由さの中にこそ、あなたらしい「商い」と「暮らし」のヒントが隠されているのかもしれません。
誰かの正解を生きるのではなく、自分の違和感を大切にしながら、自分サイズの暮らしと仕事をデザインしていく。 もし、そんな生き方に少しでも共感していただけたら、ぜひ私のプロフィールページを覗いてみてください。
きっと、あなたのモヤモヤを晴らす、新しい視点が見つかるはずです。
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