すでにあった力を、仕事の中に置き直した。
― 伴走デザイン対話セッションで、自分の仕事が変わっていった一人の実践
「自分には、まだ何か足りない。」
仕事をつくろうとするとき、そんなふうに考えてしまうことがあります。
新しい知識が必要なのかもしれない。
資格を取ったほうがいいのかもしれない。
もっとスキルを身につけなければいけないのかもしれない。
けれど、本当にそうなのでしょうか。
今回、伴走デザイン対話セッションをご一緒した方から、そんな問いを考えさせられる報告をいただきました。
その方は、これまで長く人に教える仕事をしてきた経験を持ち、現在はヨガ講師として活動されています。
対話の中で見つかったのは、これまで本人が「足りない」と感じていたものではありませんでした。
すでに持っていた力を、自分の仕事の中にきちんと置くこと。
それが、仕事の感覚を変えていきました。
「前歴を卒業して、現職として名乗る」
ある日、その方は視覚障がい者向けの機器展示会に、講師として参加しました。
会場には、これまでの仕事でつながりのあった方も来ていました。
そこで、
「学校に来て、体育でヨガを教えてほしい」
と声をかけられたそうです。
以前なら、
「もちろん、無償でもやりますよ」
と答えていたかもしれない。
けれど、このときは違いました。
きちんと、
「講師料はいただきます」
と伝えることができた。
本人にとって、この出来事は、
「私にとっては、前歴を卒業して、ヨガ講師を現職として名乗る機会になった」
と感じるものだったそうです。
これは、単に料金を請求できるようになった、という話ではありません。
自分がこれから何者として仕事をしていくのか。
その境界線を、自分自身で引けるようになった。
そんな変化でした。
「無償でやります」をやめることができた
本人の中には、いくつもの考えが同時に浮かんでいたそうです。
子どもたちに会いたい。
良いものを届けたい。
でも、それとビジネスとして仕事をすることは、別のこと。
無償で始めれば、その場では喜ばれるかもしれない。
けれど、その状態が続けば、後から自分が苦しくなる。
そして何より、
無償で提供すれば、本来の価値まで受け取ってもらえないかもしれない。
そんなことまで、迷わず考えられるようになっていた。
さらに、
「たとえ断られても、私の商品に価値を感じてくれる場があるので、無理にここで買ってもらわなくてもいい」
とも考えたそうです。
これは、「お金を優先した」という話ではありません。
むしろ、
誰かに必要とされたいから、自分の価値を安くする。
という状態から、一歩外に出たのだと思います。
自分の商品には価値がある。
その価値を必要としている人や場所は、ここ以外にもある。
だから、相手との関係を大切にしながら、自分の仕事としてきちんと扱う。
そんな感覚です。
そして、もう一つ大きな発見があった
その後、まったく初めて会う人たちを対象にしたイベントで、ヨガのクラスを担当しました。
参加者にはヨガ経験がありません。
アイマスクをつけてもらい、椅子に座ったまま、身体や呼吸を感じてもらう。
とてもシンプルな内容でした。
けれど、そのシンプルさのおかげで、
目の前にいる人に、全集中できた。
そう感じたそうです。
声が聴き取りづらそうな人がいる。
そのことに気づいたら、すぐに床に膝をつく。
少しでも声が届きやすいようにする。
次のプログラムのことを考えるのではなく、
いま目の前にいる人に、
呼吸や身体を感じてもらう。
そのことだけに集中する。
振り返ってみて、
「あ、今私は、目の前の人たちに、呼吸やからだを感じてもらいたい、というそのことだけに全集中しているな」
と気づいたそうです。
「教員としてできていた仕事」に、もう一度近づけた
本人にとって、この感覚は初めてのものでした。
これまでは、
「次はあれをやって……」
と、頭の中に次のことが待っていた。
でも、この日は違った。
目の前の人を見る。
その人に合わせる。
その人が感じられるようにする。
それだけに集中する。
そこで感じたのが、
「教員としてできていた仕事の質の高さに、近いところまで、今回はできた」
という感覚だったそうです。
以前の仕事に戻ったわけではありません。
新しい資格を取ったわけでもありません。
過去の経験を、そのまま再現したわけでもない。
これまでの人生の中ですでに身につけていたものが、別の仕事の中でも生きている。
そのことを、本人が実感できた瞬間でした。
見つかったのは、「感じてもらうスキル」
この変化につながったのが、セッションの中で整理した「コアスキル」でした。
その中で、
「感じてもらうスキル」
が見えてきた。
でも本人は、ここでとても重要なことに気づきました。
「欠けているというのは、ない、という意味ではなく、その時間をクラスの中にきちんと位置づけていなかった、という意味です。」
つまり、
「持っていなかった」のではない。
ただ、
「仕事の中で、まだ十分に位置づけていなかった」。
それだけだった。
そして、
「この力を、クラスの中にきちんと置いてみよう」
と考えた。
すると、クラスそのものが、
「こうあってほしい」
と思っていた方向へ変わっていった。
仕事を「つくる」とは、新しいものを足すことだけではない
起業というと、
新しい商品をつくる。
新しいサービスをつくる。
新しい技術を身につける。
そんなふうに考えがちです。
でも、今回の出来事を聞いていると、少し違った景色が見えてきます。
すでに持っている経験。
人との関わり方。
自然にできていること。
これまで当たり前すぎて、価値だと思っていなかったこと。
そういうものの中にも、
仕事の種は、すでにあるのかもしれない。
必要なのは、それを外から付け足すことではなく、
一度立ち止まって、
「私は、何をすでに持っているんだろう?」
と見つめ直すこと。
そして、
「それを、どこに置けばいいんだろう?」
と考えてみること。
その人の人生にしかない材料から、仕事をつくる
伴走デザイン対話セッションで、一緒に見ているのは、
「世の中で売れる商品は何か」
だけではありません。
その人がどんなふうに暮らしてきたのか。
何を大切にしているのか。
どんな経験をしてきたのか。
何が好きなのか。
何を自然にできるのか。
人から何を頼まれてきたのか。
そして、
まだ本人が「仕事」として扱っていないものの中に、何があるのか。
そこまで含めて、
その人自身の現実を材料にして、仕事の形を考えていきます。
だから、最初から完成した商品を持ってきてもらう必要はありません。
「何をしたらいいのかわからない」
でもいい。
「なんとなく、今のままではない気がする」
でもいい。
「こんなこと、仕事になるのかな」
でもいい。
答えを渡したのではなく、本人が自分の答えを見つけた
今回の話で、私が何より印象に残ったのは、
この変化を「セッションで教えてもらったこと」として語っていないことです。
本人が、
自分のコアスキルを整理し、
自分の中にあるものに気づき、
実際の現場で試して、
「あ、これだったんだ」
と、自分自身で発見している。
私は、これがこのセッションの大切なところだと思っています。
人生も、
暮らしも、
仕事も、
誰かから完成した答えをもらうものではない。
あなたの中には、もう材料があるかもしれない。
仕事をつくるために、
何か特別なものを足さなくてもいいかもしれません。
今までの経験。
好きで続けてきたこと。
人から頼まれてきたこと。
自然にできていたこと。
暮らしの中で積み重ねてきたこと。
まだ「仕事」と呼んでいないもの。
そこに目を向けてみる。
そして、
自分の暮らしに合う場所へ、もう一度置いてみる。
すると、
仕事の形が変わることがあります。
働き方が変わることがあります。
そして、自分自身が、
「これなら、自分の仕事として続けていける」
と思える場所が見つかることがあります。
伴走デザイン対話セッションについて
この事例で紹介したように、セッションでは「正解」をお渡しするのではなく、これまでの経験や暮らし、すでに持っているものを一緒に整理しながら、その人自身の仕事や事業の形をつくっていきます。
仕事をゼロから発明するのではなく、
あなたの中にすでにあるものから、仕事の種を見つける。
そんなところから、一緒に始めています。
※ご本人の希望により、氏名・所属等は匿名で掲載しています。掲載内容については、ご本人の了承を得ています。